今回スポットを当てるのは風神録以降は第一線から退いたものの未だに根強い人気を誇る十六夜咲夜さん。
PARADOXさんの東方考察は以前よく見ていたのだが、その中でも一番目を引いたのが彼女に関する考察でありました。ザ・ワールドよろしく時間を操る彼女の能力は某有名漫画のパロディとしてよく扱われますが、東方関連のテキストを読み漁ると、どうやらその能力は永遠亭の蓬莱山輝夜と酷似しているものであるという事がわかります。つまり永遠(蓬莱)に通じている存在である事が示唆されているようです。さて、そんな中でPARADOXさんの考察で特に印象に残っているのが十六夜咲夜と切り裂きジャックを結びつける考察です。咲夜に関する一連の考察の締めくくりにKEIYAさんはその考察に対する目的を「幻想」であるとしています。当時東方を始めたばかりだった自分にとってPARADOXさんの考察文というのは実に刺激的で東方の世界観というものに対して大きく認識を改めさせる切っ掛けとなったように記憶しています。それから数年経ってまさか自分まで考察を旨とするサイトを立ち上げる事になるとは思いもしませんでしたが、こんな風に自分の考察も誰かに東方の世界に想いを馳せる切っ掛けとなる事ができたなら本望であります。
さて、関係の無い与太話はここら辺で終えておいて十六夜咲夜に関する考察をしたいと思います。
PARADOXさんの考察を元に十六夜咲夜と切り裂きジャックを繋ぎ合わせて来た前提を持って、今回はもう少し深い部分までアプローチを仕掛けていきたいと思います。そもそも切り裂きジャックという希代の殺人鬼には謎が多く、一連の事件より一世紀以上がたった現在においても真相は解明されず、現在においてはある種の神秘性すら孕んでいます。そんな中で切り裂きジャックに関する考察を始めたいとは思いますが、取り扱う事柄が事柄であるだけに不慣れではありますが前提としての注釈を入れたいと思います。
今回、切り裂きジャックをモデルとしたと考えられる人物を取り扱うに当たり、一連の事件における実在の人物名に関しても言及を行いますが、この文章は故人に対する尊厳の剥奪や故人に対する攻撃などの目的を前提に踏まえたものでは無く、ファンタジーとしての切り裂きジャック像に迫る上での前提として実在の事件に対して言及するものであります。事件に関連された方々や故人を表現の題材とする事に対して不快感を示す方にはお詫びするよりありませんが、現代における「切り裂きジャック」という偶像に迫る上での文化表現の一貫であると考えて頂けるのならば幸いであります。また、ここに書かれる文章は全て著者の想像によるものであり、過去に実在した事件との関連性は一切ありません。ここに書かれる文章の文責は全て著者が負うものであり、題材としている上海アリス幻樂団様、並びに紹介している個人サイト様とも一切の関係が無い事も併せて記させて頂きます。
■切り裂きジル■
さて、今日に到るまでに猟奇殺人鬼の始祖としてその名を知らしめたジャック・ザ・リッパーでありますが、凶行が及んでいる最中においても被害者の女性たちが警戒心もなく犯人を迎え入れている形跡がある事から、実は女性による犯行とする説もあったりします。そもそもジャックという呼称は日本でいう「名無しの権兵衛」的な位置づけであり、ジャック・ザ・リッパーを特定の人物と関連付けた呼称では無いのです。ちなみに女性である場合は切り裂きジルと呼ばれるそうです。
そんななかで謎の多い切り裂きジャックの真犯人説において俗説ながらも「イギリス王朝説」というものがあります。以前このイギリス王朝説に関して面白いアプローチを行っている方がいたのですがPCを新調した際にアドレスを紛失してしまい、どうやってそこに辿りついたかも忘れてしまいもう大雑把な内容しか覚えていませんが、王調説の概要をザラっと紹介してみます。
・まず始めに王室の王子に王室にとって好ましくない恋人がいた。
・よって、王室は王子とその恋人との関係を絶つ必要があった。
・つまり、王子の恋人を暗殺する必要があった。
・単一の殺人事件では怪しまれる可能性があったために連続殺人にする必要があった。
・そして、この連続殺人の犯人として切り裂きジャックという偶像を仕立て上げていった。
・当時、情婦の不審死というものはそれほど珍しく無かった。
・それを利用し、情婦を狙う連続猟奇殺人鬼というイメージの固定に成功する。
・十分に切り裂きジャックという犯人像が浸透したのを機に目的の人物を暗殺する。
さて、見失ったと思ったらwikipediaから簡単に探せたので紹介しておきます。
切り裂きジャックは存在したか?
さて、切り裂きジャックについては僕が今更何か言えるようなものでは無いので、ここから先は切り裂きジャックそのものについての考察というよりは切り裂きジャック=十六夜咲夜という前提で話題を進めます。多くの被害者を生んだ一連の切り裂きジャック事件の中でジャックの犯行が確実とされている事件は5件あります。つまり、メアリー・ジェーン・ケリー(エレーヌ・ド・オルレアン)を含む5名が切り裂きジャックの凶行の直接的な被害者であるとされていますが、イギリス王室説が絡むとこの5人ですらその事件性の是非が疑われてきます。少なくともメアリー・ジェーン・ケリー殺害の犯人はイギリス王室であるという事になるでしょう。では、十六夜咲夜本人は直接誰も殺害しなかったのだろうかというところになりますが、どうやらそういうわけでもないようです。
この画像は東方緋想天における十六夜咲夜のスペルカード傷魂「ソウルスカルプチュア」のスクリーンショットですが、元ネタwikiによればこのスペルカードの発動中においてのみ咲夜は瞳の色を狂気の赤に染めています。このスペルにおいて特徴的であるのがナイフの扱いで、咲夜の戦闘スタイルである投げる・刺すという用途ではなく、斬撃という扱いでの攻撃になっています。瞳を狂気の色に染め、ただひたすらに相手を切り伏せる。これほどジャック・ザ・リッパーの名に相応しいスペルカードも無いでしょう。そして、このスペルカードという存在はおおよそその人物の背負う背景や過去へ関連付けられます。十六夜咲夜がソウルスカルプチュアというスペルカードを持つ背景にはつまり確実な殺意を持って何者かを死に至らしめた過去があった事に由来していると考えて差し支えないでしょう。つまり、十六夜咲夜は確実に誰か一人は殺めているだろうという事になります。そして、おそらくはそれが彼女が「切り裂きジャック」という業を背負う切っ掛けになったのではないでしょうか。
■十六夜咲夜の名前■
さて、ここまでがNOMALモードの考察ですが、ここから先はLUNATICモードになるのでそもそも意味のある考察であるかどうか僕自身にもわかりませんが、その辺りはいつもの事なので概ね了解して頂ければ幸いであります。
作者であるZUN氏は十六夜咲夜という名前について彼女の生来の名前では無いという事を何度か示唆しています。このあたりが十六夜咲夜という存在をさらにミステリアスにしているのですが、だったら彼女の本当の名前は何なのだろうかという事になります。
Ⅰ.コノハナノサクヤビメ
「さくや」という語感から一番初めに思い浮かぶのが木花咲耶姫その人であるだろうと思います。僕自身は未読ですが、キャラメルvol4において木花咲耶姫と八ヶ岳の逸話が紹介されているようですので、概要をざらっと紹介するとその昔富士山と八ヶ岳がどちらの背が大きいかを争い八ヶ岳が勝利したところそれに腹を立てた木花咲耶姫が八ヶ岳を叩き割ってしまい姉の磐長姫はそんな妹に呆れて富士山を出てしまったそうです。
では、そんななかで十六夜咲夜と木花咲耶姫が同一であるのだろうかと言うとどうにもそうは思えず、どちらかというと姉の磐長姫のほうが咲夜の性質に近いのではないかと思われるのです。木花咲耶姫と磐長姫といえば八ヶ岳の逸話よりもむしろ天孫降臨の際に天皇家に嫁いだ神としてのほうが有名ですが、木花咲耶姫が栄華を表すのに対して磐長姫は永遠性を象徴するものとして描かれます。まぁ、磐長姫は醜女であるという噂がありますが、神話における醜女っていう表現もなんだか信用できないので無視して構わないと思います。特に日本の神話は箸の無い時代に箸が陰部に刺さって死ぬような人が出るような神話なので。むしろ醜女という符合から山の神との関連性を示唆する材料にもなるんじゃないかなと思う次第だったりします。
他にも八ヶ岳の逸話に関しては色々思うところがありますが、むしろ風神録の範疇になってしまいますし、今回は十六夜咲夜考という事なので細かくは追求しませんが八ヶ岳崩壊の逸話は実際に八ヶ岳が噴火或いは地震によって崩壊した経緯を持って描かれているという説があり、地質学的な根拠に裏打ちされているかどうかは判別がつかないものの面白い素養を含んでいる逸話であるだろうなという事も追記しておきます。
Ⅱ.ジル・ザ・リッパー
さて、冒頭で切り裂きジャックが女性であった場合の呼称をジルであるという事を書きましたが、咲夜の名前を追求するにあたってこのジルという名前の意味するところにもアプローチをかけていきたいと思います。もっともジャックという名が「名無しの権兵衛」であった事を踏まえるとジルという名にアプローチを仕掛ける事が有意義であるかどうかは不明ではありますが、まぁ、遊びなので娯楽として見て貰えれば幸いであります。
ジルというのは英語圏における女性の人物名ではJillという綴りになりますが、このJillという名前を遡ると、その原型にガイウス・ユリウス・カエサルの姿を求める事ができます。語源までには残念ながら辿り付く事ができませんでしたが、このガイウス・ユリウス・カエサルという人物は古代ローマの皇帝にあたる人物で「ブルータスおまえもか」のなかの人っていえば知ってる人も結構多いんじゃないでしょうか。jillという名前はユリウスという名前が英語圏に浸透する仮定で変形・短縮されたものだったりします。まぁ、厳密に言うとユリウスは男性名でjillは女性名なのですが同じ語源の名前にカテゴライズされるようです。あっちの名前の認識もよくわかりませんが、たぶん日本人的な感覚で言えばカツオ・カツコ・カッチャンみたいな感じだと思います。
Ⅲ.ガイウス・ユリウス・カサエル
ユリウス暦という太陽暦の一つを定めた人で、彼の定めたユリウス暦はグレゴリオ暦が定められた16世紀になるまでずっと使われていたそうです。ちなみに7月を表すJulyはユリウスの名を模したものだそうです。因みに8月はユリウス没後に初代ローマ皇帝となったAugustusに由来します。つまり、ジルという名前そのものには暦を連想させる素養があったという事になります。ちなみにユリウス・クラウディウス朝時代のローマというのはエジプトや北欧ゲルマンとも対立していたり国交があったりで何かと激動の時代でした。イエス・キリストが世に現れたのもこの時期で、この辺りを複合的に考えると紅魔郷面子の関係において面白い事実が浮かび上がってきそうなのですが、なんせもうローマ史カオスなのでその辺りは別の機会にできたらいーなーと思っています。ちなみにユリウス暦制定以前のローマは太陰暦を用いていたそうです。
Ⅳ.十六夜咲夜
月を連想されるこの名前ですが十六夜というのもなんともミステリアスな感じであります。というのも一般的に言えば満月は十五夜に訪れるものだとされているからですが、それが十六夜になると満月から欠けた月というイメージが浮かぶからです。しかしながら「十五夜」が「じゅうごや」であるのに対して「十六夜」は「じゅうろくや」ではなく「いざよい」という独特の読まれ方をします。こういった言葉の成立の背景には十六夜がある種の神聖さを持っていたからではないかななどと思ったりするのですが実際のところはどうなのか知りません。
さて、今更ここで太陽暦と太陰暦の違いや特性を論じるのも釈迦に説法というものですが太陰暦というものはおおよそ一ヶ月29日から30日が十二ヶ月続いているもので太陽暦とは一年に約11日の差があるそうです。そんななかで太陰暦の日付というものは月の満ち欠けにほぼ一致するようで、そもそも29日・30日という数字がどこから出てきたかと言えばこれは月が朔から再び朔に到るまでにかかる日数に対応しているそうです。だいたい平均すると朔から朔に到るまでにかかる周期は29.530589日かかると言われています。平均値が出されている事からわかるように月の軌道は複雑な軌道計算上におかれているため一定ではないようで、さらに言うと朔から望に到る日数と望から朔に到る日数も同一では無いという事がわかっているようです。そんな中で厳密に言うのであれば太陰暦における満月の日付というのも実は一定ではありません。
視覚的に見るのであれば十五夜の月と十六夜の月というのは肉眼ではほとんど差が無いレベルなので判断に苦しみますが、月が満月に到る時刻というのは平均すると16日の朝7時頃という事になるようです。月の周期の変動には約0.56日の差がある事を踏まえるとその差は約12時間という事になります。実質的な満月が見える日というのは15日の月と16日の月があったと考えて差し支え無いでしょう。簡単に言ってしまえば15日の月というのはまだ完成していない満月である事が多く、16日の月というのは完成した満月が徐々に欠けていく日であったと言えます。ようするに本当の意味での満月は限られた月の15日の深夜にしか見る事ができなかったわけです。そんな中で中国が15日を満月と定めると日本の文化圏もそれに影響される形で15日夜の月を満月として扱うようになります。まぁ、15日か16日かと言われれば15日の月のほうがより満月に近い状態であると言えるのでこの認識はおおよそ的を射ていると考えて良いでしょう。
さて、では文化圏ではどうなっているのかというと十六夜の月の別名に不知夜月というものがあります。「いざよい」という言葉の意味の解釈として「いさよう(出るのをためらう」というのもありますが、「不知夜月」という言葉の意味するところは「夜を知らない」という感じになるのです。「いさよう」もなんだか風情を感じてそれはそれで良いのですが、出てくるのをためらっている月が夜を知らない月と称されているのは何故なのか。それを考えると十六夜の月は最も明るい月として認知されていたのではないだろうかなと思います。さっきも書きましたが月が朔から満月に到るためには15日では足りないのです。まぁ、16日だと太陽が出ている間に満月になってしまい途端に欠け始めるので一概にどっちがどうとは言えないところなんですが、不知夜月という表現が最も明るい月を意味しているのだとすれば16日を満月として扱っていた時期もあったんじゃないだろうかなんて事も思います。中国の算盤に16進法の名残が見られるのはそのためかもしれませんな。なんだが8=night・八=夜の話もそう考えるとありそうに思えてきますが、その辺りはまた別の機会に回したいと思います。
さて、十六夜が満月を表すとするならば十六夜咲夜という名前は実に不思議な響きを持ち始めます。性と名前が満月と新月の対比を表し、そして咲夜という名前を踏まえるともう一つなんともロマンティックな図が浮かび上がるのです。16日朝に完成される満月は夜になれば欠けてしまいます。よって本当の意味での十六夜の月は決して夜の世界には現れない。そんな中で咲夜という名はそれに対抗するように「夜に咲く十六夜の月」を表すのです。うーんまさにルナティック。